【TED】アーティストは経済にどう貢献し、私たちは彼らをどう支えられるか?
「アートは人生に意味を与えます。文化にとっての塊であり、人と人を結びつけ、創造性や社会的一体感を支える基礎となります。」
概要
アーティストであり、起業家でもあるハディ・エルデベックが、TEDに登壇。
アーティストが経済にどう貢献し、社会はどのように支えるべきかについて講演した。
彼は、アーティストが副業でなく作品制作に集中できる世の中を作るために、資金援助を紹介するプラットフォームを立ち上げたという。
早速、その内容をシェアしよう。
内容
私は5人兄弟で、全員エンジニアか科学者です。
数年前、みんなにこんなメールを送りました。
「兄弟各位 お元気でお過ごしのことと思います。
さてこの度、私は工学博士過程を中退し、専業のミュージシャンを目指すことをお知らせいたします。
どうか心配しないでください。」
兄弟その1が、返事をくれました。
「幸運を祈ってるよ。きっと運が必要になるから。」
兄弟その2は、もっと慎重でした。
「やめとけ。人生最悪の選択になるぞ。まっとうな職につけ。」
他の兄弟は、よほど私の決意に感動したのか、返事もくれませんでした。(笑)
みんな私を気にかけ、心配するからこそ、慎重になることは分かっています。
兄たちは、私がアーティストとして成功するのは難しいと判断し、きっと大変な挑戦になると思ったのです。
そして、兄たちの予想通りになりました。
アーティストで食べていくのは、本当に大変なんです。
日々の支払いをするために副業につく友達もたくさんいますが、副業が本業になってしまうこともあります。
こんな経験をしているのは、私や友達だけではありません。
アメリカ国勢調査局によると、芸術系の学校を卒業した人のうち、専業のアーティストになれるのは、わずか1割です。
残りの9割は、進路を変更して、マーケティング、営業、教育など、他の仕事につきます。
よくある話ですよね?
アーティストは売れないとみんな決めてかかっていますから。
でも、なぜそう決めつけるのでしょうか?
ハフィントンポストによると、EUは4年前に、世界最大の芸術助成制度を始めました。
「クリエイティブ・ヨーロッパ」というこの制度は、24億ドルを30万人のアーティストに助成する予定です。
一方、アメリカ最大の芸術助成制度である、全米芸術基金による助成金は、1億4600万ドルに過ぎません。
米軍音楽隊の基金だけでも、全米芸術基金の予算のほぼ2倍です。
国防軍事関連予算は、1兆ドルもあります。
その中から、たった0.05%を振り分けるだけで、運営費が2000万ドルかかるフルタイムのオーケストラを20も運営できて、さらに8万人以上のアーティスト全員に、5万ドルの年俸を払えます。
1%であれば、どれぐらいの効果を生むのでしょうか?
私たちが生きる資本主義社会では、利益が重視されます。
だから、経済面からも考えましょう。
アメリカにおける非営利アート産業は、経済活動に換算して1660億ドル以上の利益を生み、5700万人の雇用を生み、126億ドルの税収を生みます。
これは経済に限った話であり、アートは経済的な価値をはるかに超えるものがあります。
アートは人生に意味を与えます。
文化にとっての塊であり、人と人を結びつけ、創造性や社会的一体感を支える基礎となります。
アートはこれほど経済に貢献しているのに、アートやアーティストへの投資がまだまだ少ないのはなぜでしょうか?
私は、制度に欠陥がある上に、まったくフェアじゃないと思っています。
だからこそ、制度を変えたいのです。
私が暮らしたい社会とは、もっと芸術家の価値が高く評価され、もっと文化的・経済的に支援され、Uberのドライバーや、やりたくもない会社勤めをせずに、作品制作に集中できる社会です。
私は、アーティストとお金のある人を結びつけるアイディアを具現化しました。
私設の団体やアートに興味のある個人と、アーティストを繋げるサービスが、Grantpaです。
これは、アーティストに助成金や資金援助を紹介する、テクノロジーを利用したオンライン・プラットフォームで、素早く簡単な上に敷居も高くありません。
Grantpaは、資金援助の不公平という問題を解決する、第一歩に過ぎません。
私たちは、アーティストの社会的な立場を、再評価する必要があります。
アートを贅沢品と捉えるか、生活必需品と捉えるかは、人それぞれです。
しかし、作品創りに専念できない、アーティストの日々を理解しているでしょうか?
みなさんはまだ、好きなことをしているのだから、幸せなはずだと考えますか?
私は、数年以内に兄弟にこんなメールを送る予定です。
「兄弟各位 お元気でお過ごしのことと思います。
私を含め、何百、何千ものアーティストが、順調に活躍していることをお伝えしようと思い、メールを差し上げました。
文化的にも、経済的にも、私たちへの評価は日増しに高まり、十分な資金を得て作品制作に注力し、続々と作品を生み出しています。
兄さんたちの支援に感謝します。」
感想
日本だけでなく、自由とチャンスの国アメリカでも、アーティストとして生きていく道は厳しく、社会的価値がまだ低く、反対される職業であることを知った。
資本主義色が強すぎるからだろうか。
国防軍事関連予算の額は、尋常じゃないにも関わらず、アーティストへの支援は少ない。
その一方、ヨーロッパでは支援金が多く、すなわち芸術の価値が高く評価されていることを理解した。
アーティストが現状を伝えるために講演して発信すること、そして、あらゆるジャンルのハイレベルな話を受け入れるTEDという場があることは素晴らしい。
彼は講演して現状を伝えるだけでなく、起業家としてアーティストと資金提供者を繋げるプラットフォームを作り、アーティストが作品制作に集中できる環境を整え始めている。
起業とはかけ離れた世界にいるはずのアーティストが起業し、現状を啓蒙するという行動力は賞賛に値する。
芸術関連以外の人は、ほとんどがアーティストの現状について知らないし、知らないと何もアクションを起こせない。
講演を聴いた人の中から、その内容に感動し、資金援助をする経済的余裕のある人も出てくるだろう。
あらためて、発言の価値、発信することの意義、そして行動力の重要性が理解できる。